フシギ タノシイ ヘンテコリン
こどもから大人まで楽しめる、絵本のような文様じてん。
下中菜穂著ロングセラー『こども文様ずかん』待望の続編、『こども文様じてん』が2020年7月27日に出版されました。
このたびの出版にあわせて、著者である下中菜穂に、あたらしく生まれた本のことについてあれこれと話を聞いてみました。
みなさんも、よろしければご一緒にお茶でも飲みながら、いかがですか?
著者に聞く
■「こども文様じてん」は、2010年12月に出版された「こども文様ずかん」の続編として生まれました。
「こども文様ずかん」と「こども文様じてん」。
それぞれの特色や、つくった目的、また、何か違いなどがあれば聞かせてくれますか?
(以下 下中菜穂の声)
なんと10年前になるのですね。う〜早いものです
前作の「こども文様ずかん」は「季節のめぐり」に合わせて、日本の文様の世界を構成しましたが、新作「こども文様じてん」では「天地人」が小さい形の中に閉じ込められているおもしろさ、不思議さが軸になっています。
文様の世界は本当に豊かで深く、とてもとてもこの2冊でこと足りるものではありません。
ひとつひとつの「かたち」は、たくさんの物語や意味をまとった「言葉」のようなもので、そこから何を生みだし、何を読みとるかは、私達自身に委ねられているのだと思います。その可能性をそれぞれの本で追求しています。
■エクスプランテ出版のガジェットブックスシリーズのもんきりの本と、平凡社の「こども文様」シリーズの本と、大きな違いは何だと思いますか?
エクスプランテのシリーズは、和紙折紙がついています。(それも結構たくさん)
それは読者の方に「手の中から生まれる」感動をぜひ味わっていただきたかったのです。(紙が少しだと、もったいなくてやらずじまいになりがちな私です)
私が明治時代の本で初めて「もんきり」と出会った時、ヘ〜そうだったんだ。と思うだけで、ふと「やってみる」ことがなければ、ここまでこの切り紙の魅力にはまらなかったと思うのです。
少しでも「やってみる」ハードルを下げようと考えて、こんな形の本になりました。
ただ、このような形の本だと皆さんの「手」の感触には残っても、モノとして残りにくい。
私がいったん滅びていたこの遊びと出会ったのも「本」があったからこそ。
「本」は時間を超えて私を待ってくれていました。
平凡社の「こども文様」シリーズは、そんな「本」になればいいなと思っています。
■どんな方がどんな場面で「こども文様じてん」を読んでくれるか、どんなふうにこの本を楽しんでくれるか、今回本を作りながら想像しましたか?
もし何かイメージがあったら、その風景をいくつか教えてください。
タイトルに「こども」とあり、たぶん児童書のコーナーに並べられるのだと思うのですが、実は、こどもを含めた大人たちにも読んでもらいたいと思って作っています。
今回本作りに参加してくれたスタッフの松田さんは、前作を父兄が参加する小学校の「読み聞かせ」の時間で読んでくれたそうです。
おとながこどもに読む。声に出して読む。
そんな場面を想像して音として気持ちの良い言葉を選んだつもりです。
少し難しい言葉もあえて使いました。
ひたすら子どもにもわかりやすくと考えるのは、なんだかこどもに失礼な気がして…(笑)
繰り返し読みながら、意味がわからないところが、ある時ふとわかった喜びを味わう。
そんな、楽しみや余白を残したいなと思っています。
■「こども文様じてん」のなかで、特に気に入っているページやおすすめのページはありますか?
また本の装丁でお気に入りの部分や、おっ!とうれしかった場所はありますか?
意外と気がつかないままな人も多いので、是非、表紙のカバーを一度取ってみてください。
前作ともにデザインを担当してくださったのは鷹觜麻衣子さん。
彼女との合言葉は「堂々デザインにしましょう!」でした。
この表紙は、その堂々ぶり、「紋」というデザインの素晴らしさがよ~く感じられると思います。
カバーや帯は、あれあこれやと編集の林理映子さんや営業の方も交えて散々悩んだものです。
帯を外して開くと山が波に…。
読者の方が気がついてくれるかな?という工夫が随所にあるので、探してみてください。
本文では、p.3~5 p.10~11 p.16~17 (あ~もっとどんどん挙げればキリがない…のでこのへんで)なんかが好きです!
■おすすめしたいところがたくさんですね!読者としても長くじっくり楽しめそうです。
本で紹介されている紋のなかに、特にお気に入りのものはありますか?
この本に取り上げている「紋」はみんな「もんきり」で作ってみることができるようにと考えています。
なので、今回はこの本のため、いくつかの「紋」の新しい「型紙」を制作しました。
その中で今、「抱き角」(だきつの p.17)がめちゃめちゃ気に入っています。
カッコいいでしょ~。
気に入ったあまり、この本の他の箇所にまだ2つ載せています。
よかったら探してみてくださいね。
実は今、私の部屋には鹿の角(実物)があります。関西の友人から紹介された猟師の青年から譲ってもらったもの。
なんともいえない神々しさがあって、触っていると深い森や野生の力がみなぎる感じ。
そこで暮らす鹿の姿を思い浮かべながら魅入られてしまいます。
「鹿角」を文様にしようとしたご先祖の気持ち、なんだか、わかるな~。
■「こども文様じてん」を世に送った制作チームのことを教えてください。
また、制作中たのしかったこと、苦心したことなど、制作の裏話はありますか?
デザインの鷹觜さん、編集の林さん、スタッフの松田さんのことは先にお話ししました。
他にはいつも型紙や紋などの図像データを管理してくれている長田香さん、コロナ自粛の直前に写真撮りをしてくださった大屋孝雄さん、肝心な時に的確なアドバイスをくれる下中美都さん。
すみずみまで目を配り、何度も原稿を見直してくださった平凡社の校正さん。
(これ、ほんとすごいです。頭が下がります。)
あ~、改めてみなさんありがとう。
本当にいろんな人のチームで出来上がった本ですね。
この本の構想は以前からあったのですが、仕上げの時期のほとんどは「コロナ自粛」の期間でした。
もちろん、家で集中するには支障がないどころか、他のワークショップの仕事が中止に追い込まれしっかり時間はあったのです。
でも、日々事態が深刻化するコロナという出来事は、私たちの深いところに揺さぶりをかけ続けていました。(今もですね)
その中で言葉を紡ぐことは難しく、七転八倒しました。(特にp.38~39)
「私は過去から何を汲みとり、未来に何を伝えようとするのか」
今もその問いは私の中で、こだまし続けています。
そうそう、
松田さんとのミーティングは何回か、風通しのいい近所の「くさっぱら公園」でやりました。
■「こども文様じてん」が完成して、もしも心残りなことや、もっとやりたかったことがあれば教えてください。
もしもさらに10年後の2030年に「こども文様じてん」の続編が作れるとしたら、どんな本になりますか?
また、これからやりたいことがありましたら、ヒントやキーワードだけでも教えてください。
はい。もともとこの1冊でやり切れるとは思っていなかったので、やりたいことは、まだまだ、た~くさんあります。
たまたま10年ごとにこのシリーズを出すことになりましたが、もう今すぐにでも次に取りかかりたい!
この本ができあがる後半には「次は…」のことを考えていました(笑)。
内容はナイショです。
「切り紙」をするということは、文様を身体化するひとつの方法です。
でも、まだまだ、いろんなやり方がありそうだなと思っています。
ここ数年続けていて面白くなってきた「旧暦カフェ」という連続ワークショップがあるのですが、そういうものもそろそろ何か形にできたらいいなと思っています。
■最後に読者の皆さんにひとこと!
先祖たちの、小さい世界から大きく深い天地へと広がる想像力はすごい!
1冊の本から始まった私の「文様」の森の探検。
これからも、みなさんと一緒に続けていければ嬉しいです。
本を作ることと、
直接みなさんとお会いして一緒に場を作っていくワークショップ。
私はその2つを両輪として、仕事を続けてきました。
この本にもそんなワークショップの積み重ねが活きていると思います。
ところが、ここで「人が集い、移動する」ことを阻むウイルスの登場。
悔しいね~。
でもこの期間は、身近な自然や自らの手で作りだすものとじっくり向かい合い、
想像力を鍛え、思索を深めるチャンスにできるかもしれないなあ。
きっときっと、どこかでお会いしましょう。
下中菜穂
さらに、制作にも深く深くかかわったスタッフ松田より
「こども文様じてん」の推薦文が届きました!
“小さい小さい「かたち」のなかに、天と地がある。”
そんな書き出しではじまる「こども文様じてん」は、日本の伝統的な文様と出会う本。
10年前から愛され続けている「こども文様ずかん」の続編です。
ページをめくるごとに、文様のさまざまな世界がひらかれます。
大きな空の太陽、月。山々とそこにたなびく雲や霞。野山に暮らす動物や植物。
海や川、そこに棲む生き物たち。暮らしの中のこまごまとした道具や玩具まで。
文様宇宙に網羅される、あらゆるものもの。
わたしたちのご先祖さまたちは、どうしてこんなに面白いかたちをみつけたのだろう。
どうやってこんなに美しいかたちを作り出したのだろう。
そのかたちを通して、わたしたちは世界に触れ、味わい、いつくしむことさえ出来そうです。
堂々とした美しい図版で、ひとつひとつの文様の美しさ、面白さを存分に味わえます。
また、その文様に添えられた文章の小気味がいいこと!
日本語の美しさ、面白さもぜひ一緒に楽しんでください。
ご先祖様が私たちに贈ってくれたこんなに素敵な「かたち」の世界。
日本の文様と出会い、知り、遊び、自分たちのものとし、
また次の世の人々に伝えてゆきたい!
この本がその入口になりますように。
こどもたちに、届け!
エクスプランテスタッフ 松田
下中菜穂(左)とスタッフ松田(右)
写真撮影:奥村恵子さん(いとよし)
2019.5.26もんきりワークショップ にて
さぁ、本を開こう!
文様の森で、会いましょう。
『平凡社刊 こども文様じてん』は全国書店でお取扱い中。
店頭にない場合は取り寄せも出来ます。
また小社エクスプランテのネットショップでも好評販売中です
https://explantae.theshop.jp/items/31434594