【ワークショップご報告】旧暦カフェ 第14回「重陽・お九日」 東京・南青山 折形デザイン研究所

2019年9月29日(日)、 東京・南青山 の「折形デザイン研究所」にて開催された第14回 旧暦カフェ・ワークショップ「重陽・お九日」の当日の様子をご報告いたします。

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旧暦の重陽(10/6)より1週間早い開催。
菊は咲いていない、、、ということで、横山恵美子さんに花市場で仕入れをお願いすることに。
短日植物の菊は、日の長さで花芽を準備するので、すでに花芽はできているはず。
やはり、この気温の高さゆえか。

まずは野菊のお出迎え。


室内にはもんきりの小屏風と、熊野本宮大社の「挑花ちょうばな
紙で花を作る文化はまだまだありそう。
朝鮮半島にも、、。


さて。
「菊」をめぐる問い。
なぜ、かつて、こんなにも好まれたのか?
そして、なぜ 重陽=菊の節供 は影が薄いのか?

まずは、参加してくださった皆さんの「菊をめぐる思い出」や「菊のイメージ」を出し合います。

お墓や仏壇の花。お棺の中に入れる。花もちがいい。菊を挿した花瓶の水が臭い。畑の縁に咲いている。菊の文様。

幼い頃のシャンプーの匂い(だから嫌いになっちゃった)菊人形。

香道にも「重陽香」がある。水引細工のデザインによく使う。お城の前に幔幕まんまくを張って菊花展。

開店やお葬式の花輪。一番偉い来賓の胸に刺す花かざり。などなど。


かつては中国伝来の植物で、その文化の香り高く、たくさんの物語をまとった佳きものとしての「菊」。
不老長寿の仙薬せんやく。高貴な花だったものが、どうやらちょっと残念な存在に。
一年中絶やすことなくあることがかえって、秋ならではの花としての価値を奪ってしまったのかもしれません。


「菊の着せ綿きせわた」の綿とは、真綿のこと。
重陽の前日の夜、庭の菊の花にかぶせて、翌朝花の香と夜露が移った真綿で顔や体を拭うと不老長寿の効があるという。

蚕のまゆから作った真綿も、すっかり触れる機会がなくなりました。
これは各自持ち帰って、5日の晩の実験用に。

平安時代に渡来した菊はどうやらほとんどが白(少し黄色)らしい。
せいぜい5センチほどの花。
その上に白い真綿。千年の昔の光景を想像しながら試してみたい。


この日のお菓子。
旧暦カフェのたびに、行事のお菓子を試行錯誤してくださっている佐藤千佳子さんから、重陽のお菓子の制作レポートもいただきました。

佐藤千佳子さんより
letter

重陽のお菓子制作レポート 【菊花煎】

旧暦カフェ、今月の重陽のお節供にもお菓子を作らせて頂きました。
現代において重陽の菓子といえば「ピンクの着せ綿(下の写真)」です。


平安時代より、重陽における日本独自の風習であった着せ綿。
新暦以降はほとんど知られないものとなってしまいましたが、和菓子の世界では今も尚、伝統の意匠として大切に受け継がれています。

けれどこれまでの旧暦カフェにおいて、年中行事とは単なるイベントではなく、もっと生活に密接であり、その時期を健やかに過ごす為に必要なものを人が得るための仕掛け(であったはず)ということを学んだ私としては、この着せ綿を模した練り切り菓子は、重陽の本質から遠く離れた近代の祝い菓子に思えました。

では本来の菓子とはどんなものであったのか。
なぼ先生から頂いた資料等で知った韓国の重陽菓子「菊花煎(クッカジョン)」を手掛かりに試作をするうちに、いくつか気づいたことがありましたので、以下にまとめます。

その1.
菊花煎の「砕いた餅米で小豆を包み、菊花を乗せた生菓子」という構成は和菓子の原型と言われる椿餅つばきもちとよく似ており、素材の取り合わせとして自然と思われる。(古代の甘味料は甘葛あまづらであったとの資料あり)→故に、今回この形を採用。

その2.
当時の人達の不老長寿に対する願いは切実貪欲で、行事とはそもそもその為の薬効を得る為の手段であったであろうと考えた時、菊花煎に乗せられた菊は飾り程度に貼り付けたものではなかったはず。

その3.
ということは、量を食べられない生の花弁ではなく、茹でてカサを減らし、菓子1つに花一輪程度は乗せていたのではないか。もっと言うとすれば、餅や小豆は、えぐみの強い菊をたくさん食べる為のオブラート的な役割ではなかったのではないか。

などなど。

以上のことから、朱い盆に並べられた三種の菊花煎の中で、茹でた花を丸ごと用いた真ん中の形に行事食としての信憑性を得た今回の研究でありました。


もう一点、ベースとなる餅に使われた米は、稲刈りの時期と重なることから新米を用いて神様にお供えすると考えたいところですが、食べ物が貴重であった時代、そのままで美味しい米をわざわざ砕いて菓子にすることは考えにくいように思えました。

新しい米の収穫が確定した時の古米の使い道(美味しくなくなった余り物に、違う価値、命を吹き込んで食す)という知恵があったのでは…ということも、今回実際に手仕事をする中で確信に近く感じられたことでした。

正解はいかに…。
佐藤千佳子



この時期に新米の米をわざわざ砕いて道明寺にするというのには違和感がある。だから、このお菓子は古米で作ったのではとの佐藤さんの推理。
「収穫も済んだ!これで来年1年間は食べられる。古いお米を心置きなく使おう」そんな風にご先祖様の気持ちを想像しながらの探求。

菊はほろ苦いけど、甘い小豆あんと一緒に美味しくいただきました!

写真左手の草花包みの折形は、「陰」の形。
重陽(奇数は陽。九は陽数の最大なので9月9日は九が重なる重陽)は陽の気が強すぎるので、陰と合わせるというのもいいいのかも。(推測ですが)

右手の白い紙の上に並べたもんきりは、「斧 琴 菊ヨキ コト キク」(善き事を聞く)

この日に高いところに登る「登高とうこう」。
青々とした草花に別れを告げる「辞青」。

春には過去の汚れを払い、(春の川や浜遊び)
秋には未発みはつ不祥ふしょうを払う。(秋の山登り)

民間の収穫祭「お九日おくんち

興味深いことは多けれど、なかなか複雑な重陽でした。

しもなかなぼ

(レポート中、山口美登利さん撮影のお写真もお借りしました。ありがとうございました)


旧暦の時間軸で日本の年中行事を見つめなおすワークショップ「旧暦カフェ」。
次回は亥の子いのこ 十日夜とおかんや」をテーマに11月3日(日)に、会場は同じく南青山の折形デザイン研究所さんで開催いたします。

どうぞ皆さまお誘いあわせの上、ご参加ください。

*20191005次回開催概要を追記いたしました。